First X'mas


 12月に入ると、街がすぐさまクリスマス一色に染まる。あちこちにツリーやサンタの人形が立ち、クリスマスソングがこれでもかというように流される。
 クリスマスが近付くにつれ、それはますます熱を帯び、街中がクリスマス熱に浮かされていった。
 正直、この雰囲気は好きじゃない。街にクリスマスを押し付けられてるようで。
 どうせ、クリスマスだからって何かいいことがあるわけでもないのに・・・。



「やっぱどの店見てもクリスマス一色だよな、越前」
「そりゃそーでしょ」
「だよな、イブだもんな」
 部活が終わった帰り道、久しぶりに桃先輩と寄り道をした。
 ファーストフード店の2階席から、楽しそうに下を眺める桃先輩。その横顔を見ていたら、不意にこっちを向かれた。視線がぶつかる。
「何だよ、俺の顔ジッと見て。さてはあまりにいい男なんで見惚れてたな?」
 笑いながら人差し指で額を突付かれた。
 ここでムキになって否定すると、更に突っ込まれるのが目に見えている。ここはひとつ・・・
「うん、見惚れてた。桃先輩カッコいいなって」
「え・・・」
 俺が否定するとばっかり思ってたのだろう。桃先輩は言葉に詰まり、その直後に照れ始めた。
「ほ、本気かよ、越前・・・」
 嬉しそうに問われ、即座に否定した。
「冗談に決まってるでしょ。大体、桃先輩の顔に今更見惚れたりしないよ。毎日見てるんだから」
「な!じゃあさっきの返事はなんなんだよ」
「桃先輩が否定されたがってたみたいだったから、あえて肯定してみただけっす」
「くそぉ、ちょっとでも可愛いと思った俺がバカだった」
「まだまだっすね、桃先輩」
 こんな他愛無いやりとりにホッとする。桃先輩に言ったら喜ぶだろうから絶対言う気はないけど。
「そーいやー久しぶりだよな。部活帰りに越前と寄り道すんのって」
「ふーん。『越前と』は久しぶりなんだ。じゃあ誰と寄り道してたわけ?」
「・・・揚げ足とんなよ」
「冗談っすよ。桃先輩たちが結構苦労してるのぐらい知ってますって」
「先輩たちが引退して、俺たちが部を背負っていかなきゃなんねーからな・・・」
「先輩業も大変っすね」
「世話かける後輩がいるからな」
「・・・誰のことっすか?」
 そう言いながら睨んだのに、桃先輩は楽しそうに笑ってる。
 いつもそうだ。俺がどれだけ怒っても、不機嫌そうな顔をしても、桃先輩はそんな俺を見て笑う。馬鹿にした笑いとかじゃなくて、嬉しそうな、楽しそうな、優しい笑顔で。
「ねぇ」
「ん?」
 もう何個目か分からないハンバーガーを頬張りながら、目で先を促された。
「何でさっきみたいに笑うわけ?」
「さっきみたいにって何だよ」
「俺が睨んでるのに、楽しそうに笑ってたでしょう?」
「笑ってたか?」
「笑ってたっす」
「んじゃ、あれだ。お前が可愛いから自然に頬が緩んだんだろ」
 サラリと言って、またハンバーガーに齧り付く。
「何それ・・・。テキトーなこと言って誤魔化すのはなしっすよ、桃先輩」
「誤魔化してないって。ちょっと不貞腐れたようなお前の顔って可愛いんだぜ?」
 何か文句を言おうと思ったら、携帯の着メロに邪魔された。
「電話だぜ、越前」
「分かってるって」
 ピッ
「もしもし」
『あ、おチビ?メリークリスマス☆』
「菊丸先輩?何っすか?」
『お、にゃんか機嫌悪いな?』
「別にそんなことないけど」
『ま、いいや。今日、おチビの誕生日だろ?だから俺たちからのおめでとーコール』
「俺たちって、他にも誰かいるんっすか?」
『うん♪大石んちでクリスマスパーティーやってんだよん』
「へー」
『・・・でも、タカさんはお店の手伝い、乾は海堂と練習、手塚は用事で不参加なんだよにゃ』
「それじゃ菊丸先輩と大石先輩と不二先輩だけ?」
『よくぞ聞いてくれた、おチビ。不二ってばヒドいんだぞ?』
「ケーキに七味唐辛子でもかけられたんですか?」
『それならまだいい!・・・いや、よくは無いけど。不二のヤツ、『デートだからゴメンね』って言ったんだぞ!!どう思う?おチビ』
「どうって・・・デートじゃ仕方ないんじゃないっすか?」
『仕方ないって・・・あ、さてはおチビもデートだな?』
「何でそうなるんっすか・・・。用が無いんなら切りますよ?」
『あー!ダメだって!!おめでとーコールだって言っただろー!とりあえず大石に変わるから』
「変わるからって・・・」
『もしもし、越前か?』
「大石副部長」
『俺はもう副部長じゃないって・・・。それより、誕生日おめでとう、越前。これからも青学男子テニス部の中心戦力として頑張ってくれよ』
「うぃっす。ありがとうございます、大石先輩」
『おっチビー誕生日おめでとー☆』
「ども・・・」
『にゃんだよ、もっと嬉しそうにしろよー。それより、白状しろおチビ。デート中にゃんだろ!!』
「違いますって・・・。大体、菊丸先輩の方がデートなんじゃないんっすか?」
『にゃ、にゃんでそうなるんだよ!変なこと言うなよな、おチビ!!』
「先に言い出したのは菊丸先輩でしょ」
『う・・・。もういい、おチビのバカー!!』
 ガチャ、ツーツーツー
 一方的に切られた。
 菊丸先輩っぽいといえば菊丸先輩っぽいけど・・・。
「英二先輩、何だって?」
「バカって叫ばれて切れたっす」
「何だよ、それ」
「・・・ずいぶん楽しそうっすね」
「仕方ねーだろ。お前、電話しながらクルクル表情変えるから、見てて楽しくてよ」
「俺は全然楽しくないんだけど」
「で、結局英二先輩の話はなんだったんだよ。何かデートって単語が聞こえたけど」
 人の話ホントに聞いてる?桃先輩・・・。いっつもこうなんだよね。
「おめでとうって言われたっす」
「おめでとう?何でまた・・・。メリークリスマスとかなら分かるけどよ」
「だって今日、俺の誕生日だし」
「え、マジかよ?」
 やっぱり知らなかったんだ。ま、別に何か期待してたワケじゃないけどね。
「くそ、迂闊だったぜ」
「何がっすか?」
「お前の誕生日が24日なのは知ってたけど、頭ん中でそれがクリスマス・イヴと繋がってなかった」
「へぇ、知ってたんだ」
「なんだよ、その意外そうな顔は」
「だって・・・」
 まさか桃先輩が俺の誕生日を知ってるなんて、思ってもなかったから。
 何でだろう、ちょっと嬉しいかもしれない。
 そんなことを思っていると、いきなり桃先輩が立ち上がった。
「よし、決めた!」
 しかも大声まで出すもんだから、完全に注目の的になってる。
 当の桃先輩はといえば、周りの視線なんかまったく気にしてない。
「越前、今から時間あるか?」
「特に用はないっすけど」
「じゃあ行くぞ」
 何処に?と質問する暇も与えず、桃先輩の姿が消えた。
 何を思いついたのかは知らないけど、トレイぐらい片付けて行ってほしいんだけど・・・。
 外に出ると、桃先輩は既に自転車に乗ってスタンバイオッケーの状態だった。
「ほら、行くぞ越前」
 後ろに乗ると同時に自転車が出発した。
「行くって、何処行くんっすか?」
「え、そりゃお前、着いてからのお楽しみだろ」
「・・・あやしーっすね」
「うるせー」
 2人とも何となく無言のまま、自転車はクリスマスムード漂う街を走り抜ける。
 方向からして、どうやら高台にある自然公園の方に向かってるみたいだ。でも、こんな時間に公園なんかに行って何する気なんだろ。
 ・・・あれ?
「ねぇ、桃先輩。あれ、不二先輩と手塚部長じゃないっすか?」
「え、あぁ、ホントだな」
 車道を挟んで向こう側の歩道、手塚部長と不二先輩が肩を並べて歩いてる。
 え?部長?
 慌てて振り向いたけど、既に2人は人波に紛れて見えない。
「桃先輩、不二先輩と一緒にいたのって、確かに部長でしたよね」
「間違いないだろ、あれは。それがどうかしたか?」
「え・・・あー別に」
 菊丸先輩の言葉がリピートされる。
 −不二のヤツ、『デートだからゴメンね』って−
 へぇ、あの2人ってやっぱ付き合ってたんだ。ま、うすうすは感じてたけど。
 不二先輩と部長のことについて考えているうちに、気がつくと自転車は坂を登り始めていた。
「桃先輩、大丈夫?」
「あ?こんな坂ぐらい大丈夫だって」
 でも息が上がってるような気がするんだけど・・・。
 ま、いいか。桃先輩自身が大丈夫だって言い張ってるんだし。
「・・・だから大丈夫かって聞いたのに」
 長い坂を登りきったところで、自転車が止まった。さっきは強がり言ってたけど、肩で息しちゃってるし。
 そんなに大変だったんなら自転車から降りたのに。
「だ、大丈夫だって言ってんだろ。おら、もう少しだから行くぞ」
「ホントに何処行くんっすか?」
 桃先輩は俺の問いには答えず、公園に自転車を置いて、木の生い茂った遊歩道の方へと進んでいく。
「ねぇ、桃先輩ってば。聞いてる?桃先ぱ・・・」
 ドンッ
 桃先輩が急に止まるから、止まりきれずにぶつかった。
「痛・・・。急に止まるの止めて下さいよ」
「わりー、でも着いたからよ」
「着いたって・・・」
「ほら」
 そういって桃先輩が俺の目の前から少し身体をずらす。
「うわ・・・」
 その場所から、街が一望できた。
 クリスマスイルミネーションで彩られた街は、星の見えない都会の夜空なんかよりよっぽど美しかった。
「キレイだろ?」
「・・・キレイっすね」
「プレゼントまだ用意できてねーからさ、とりあえず今日はこの夜景がプレゼントってことで・・・」
「安上がりっすよ、それ」
「だからとりあえずだって言ってんだろ」
「冗談っす。スゲー嬉しい、ありがと、桃先輩」
「お、おう」
 そのあと、しばらくの間2人で夜景を眺めていた。何も話さず、ただジッと・・・。
「・・・そろそろ帰るか。寒いから風邪ひいてもいけねーしな」
「そーっすね」
「送ってくぜ」
「うぃっす」
「あ、忘れてた。越前、誕生日おめでとう。それと、メリークリスマス」
「メリークリスマス、桃先輩」



 前言撤回・・・かな?クリスマス一色の街ってのも、結構悪くないかも。
 あと、クリスマスに何かいいことがあるわけでもないって言ったことも取り消す。
 たまにはいいことがあるのかもしれない。今日みたいに・・・。

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あとがき

 メリークリスマス☆そして誕生日おめでとう、リョーマ☆
 ってことで、王子BD&クリスマスSSです。
 書き上がったのがクリスマスが終わりに近付いた頃だっていうのは内緒です(言ってるし・笑)。
 王子の誕生日記念SSなんですが、ちゃんと王子が書けてたでしょうか?
 青学メンバー書くの久しぶりすぎてちょっと自信が・・・。
 いや、元々自信なんかないですが(苦笑)
 次は正月・・・。書き上がる確率は低いんですが、今年は書けなかったから来年こそは書きたいんです・・・。
 どうか書き上がりますように。・・・っていうかその前にネタの神様が下りてきますように。
 では皆様、よい年末をお過ごしくださいませ。

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