初めての『くりすます』


    その日、世界は純白に包まれていた。


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 つまみ食いをしようとキッチンに向かっていた悟空は、リビングで何やら忙しそうにしている悟浄を見つけた。
「悟浄、何やってんの?」
「見りゃ分かんだろ。パーティーの飾り付けだ。今日はクリスマスだからな、盛大にぱーっと騒がねぇと」
「くりすます?」
 聞き慣れない言葉だった。何のことか全く分からないので、悟浄に聞き返す。
「何だ、知らねぇのか?クリスマス、まぁ正確にはクリスマス・イヴだ。これはだな、12月24日、つまり今日のことで、この日はみんなご馳走を食べて酒を飲んで騒ぐんだよ。ま、俺としては可愛い女の子と一緒に過ごすのが一番良いんだけどな。今年はしょうがねぇからお前らと過ごしてやるよ」
「しょーがねーとか言って、ホントはナンパに失敗したんだろ?先刻八戒が言ってた」
 思わぬ反撃に合い、悟浄は話を逸らした。
「あ、そーそー。クリスマス・イブの夜に靴下をぶら下げて寝たら、サンタクロースがプレゼントをくれるんだぞ」
「プレゼントくれんの?でも、『さんたくろおす』って誰だよ」
「クリスマス・イブに子供達にプレゼントを配って回るおっさん、かな。赤い服着てるらしいけど、俺は会ったことねぇからホントかどうかは知らねぇな」
「へぇ〜、『さんたくろおす』かぁ。三蔵も知ってるのかなぁ」
「知ってんじゃねぇの?長年生きてんだし。それより、飾り付け手伝え」
 そう言って振り向いた時には、すでにそこに悟空の姿はなく、三蔵の部屋の方へと走る足音が聞こえるだけだった。
「さんぞー、さんぞー!!!『くりすます』って知ってんの?」
「あぁ?」
 相変わらず不機嫌そうな声で応える。
「今日は『くりすます』なんだって。悟浄が言ってた。『くりすます』にはパーティーやるんだって。そんでもって、『さんたくろおす』っていう赤い服着たおっさんが、ぶら下げた靴下にプレゼントくれるんだろ。あ、三蔵は『さんたくろおす』に会ったことあるのか?悟浄はないって言ってたけど」
 突然部屋に飛び込んで来て、訳の分からないことを捲くし立てる。頭に『怒』マークの浮き出た三蔵がハリセンを握った瞬間、場違いなほどのほほんとした声が聞こえた。
「そー言えばそうですねぇ。今日がイヴだなんて、すっかり忘れてました」
 ハリセンで殴るタイミングを完全に外した三蔵を尻目に、いつのまにか部屋に入ってきていた八戒は『ハハハ』と笑って悟空に話しかける。
「じゃあ今日は何かご馳走でも作りましょうか」
「マジ?やったぁ!」
 『ご馳走』の一言ですっかり浮かれてしまった悟空を疲れた表情で見、視線を八戒に向ける。
「八戒・・・」
「まぁまぁ。いいじゃないですか。年に一度のコトですし」
 ね、と先手を打たれてしまい、何を言っても無駄なことを悟った。八戒と言い争ったところで、自分が疲れるだけであることを良く知っている三蔵であった。
 悟浄を手伝ってくる、と来たときと同じぐらい慌ただしく悟空が去った後、余計なことしやがって、とでも言いたげに三蔵が口を開いた。
「あのバカ猿に何を吹き込みやがるんだ、あのバカ河童」
「悟空はクリスマスを知らなかったんですか、やっぱり」
「アイツは仏教以外の宗教を知らねぇからな」
「で、どうするんです?」
「何をだ?」
「プレゼントですよ。きっと靴下ぶら下げて寝ますよ、悟空」
「俺が知るか。それに、人生そんなに甘い話ばかりじゃねぇって分からせてやるのも飼い主の務めだろ」
「そうですか?」
 何もかも見透かしたような眼で三蔵を見て立ちあがる。
「じゃあ、僕は買い物にでも行ってきますね。ご馳走作るって約束しましたし」
 意味ありげな微笑みと共に去って行き、部屋には三蔵だけが残った。


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 その夜、悟浄と悟空が飾り付けたリビングでパーティーが開かれた。テーブルには約束通り八戒が作ったご馳走と、悟浄が買い込んできた酒が所狭しと並べられた。
「八戒、これメチャクチャうめー!!あ、これもうめー!」
「悟空、お前それ俺のチキンだろ。返せよ、こら」
「うっせーな、てめぇら」
「って、あー!!三蔵っ!それ俺が苦労して手に入れてきた幻の酒だぞ!全部飲む気かよ」
「うるせぇ、知るか」
「悟浄こそ、それ俺が食おうと思ってた春巻き!取るなよ」
「あ?名前書いてんのか」
「書いてなくても俺のなんだよ!」
「騒がしいですねぇ」
「コイツらが騒がしいのはいつものことだろ」
「そういえば、先刻、出掛けてたんですか?姿が見えなかったんですけど」
「部屋から一歩も出てねぇ」
「そうですか・・・」
 まだ何か言いたげな八戒を無視して、目の前から消えつつある料理に手を付ける。悟浄と悟空は、二人の会話など全く耳に入っていない様子で争いを続けていた。
 宴会と言った方が相応しいであろうクリスマス・パーティーは、料理を綺麗に平らげて一眠りした悟空が起き、それと入れ違いに悟浄が酔いつぶれた頃、時刻でいえば十一時過ぎにお開きとなった。
「八戒、クリスマスってすげー楽しいな♪あとは『さんたくろおす』のプレゼントかぁ」
「来るといいですね、サンタクロース」
「え?『さんたくろおす』って、来ないこともあるのか?」
「僕も良くは知りませんが、いつも来るとは限らないみたいですよ」
「ふーん。来るかなぁ」
「来ますよ、多分」
「そうだよな!うん、来る!!じゃあ俺もう寝るから。オヤスミ、八戒、三蔵」
「おやすみなさい」
「あぁ」
 こうして、クリスマス・イヴの夜は更けていった。


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 その夜、悟空は夢を見た。
 純白の世界が怖くなくなったあの日の夢を。
 自分を救い出してくれた三人と鍋を囲んだあの日・・・。


 朝起きると、枕元には何故かプレゼントが三つ置かれていた。


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 三つのプレゼント、それが意味するものは・・・?

 奇跡が起こる、聖なる日クリスマス・イヴ。
 貴女にも最高のクリスマスが来ることを祈って・・・

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あとがき

クリスマス用のSSということでこんな感じになりましたが、如何でしたでしょうか。
何やら非常に恥ずかしいことを思いっきり書いてしまったような気がするのですが(現在添削前)
まぁクリスマスということで、笑って誤魔化しましょう(苦笑)
さて、次は正月用のSSの〆切が待っている(遠い眼)ので、あとがきはこのくらいで。
ちなみに、悟空が見た夢の「あの日」に関しては『最遊記 Reload』壱巻をご参考下さいませ。

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