夢をみた。
　今みている、と言った方が正しいのかも知れない。
　目の前には、目を閉じているのと何ら変わらない暗黒が広がっている。
　闇･･･闇･･･闇･･･。
　闇･･･？もしかすると、この闇は、誰かの心の闇なのかもしれない。
　私の作った薬で大切な者を殺された人達の･･･否、私の･･･？
　そうかもしれない。私の手は汚れている。
　たとえ私にそのつもりがなくても、私の作った薬が毒薬として使用されていたのは事実なのだから･･･。
　結局は私も･･･闇の住人でしかないだろうか。
　そうだとすると、この夢は私に対する警告なのかもしれない。
　闇の住人である私が、綺麗な世界で生きることなど許されないという･･･。
「･･･ゃん」
　え･･･？
　闇の向こうから声が聞こえた。
　何と言ったのかは判らなかったけれど、聞き覚えのあるような、懐かしい声。

　！

　闇の中に、一筋の光が現れた。照らされているのは、小学生ぐらいの女の子二人。下校途中だろうか、ランドセルを背負い、おしゃべりに花を咲かせている。
　見覚えのある子供･･･。あれは･･･「私」？
　 　二人の会話が聞こえてきた。
「哀ちゃん、今から歩美ん家で一緒にチョコケーキ作らない？」
「チョコケーキ？ああ、そういえば明日はバレンタインね」
「うん。だから一緒に作って、明日二人でコナン君にあげようかな、って」
「江戸川君に？そう。でも残念だけど、私は誰にもあげる気がないから」
「えー、あげようよ。きっとコナン君も喜ぶよ」
「吉田さんだけの方が喜ぶんじゃないかしら？」
「そんなことないよぉ。だって、コナン君、哀ちゃんのこと好きだし」
「･･･」
「哀ちゃんもでしょ？」
「そんな･･･」
「哀ちゃんとコナン君見てたら分かるよ♪だってね、歩美、哀ちゃんのこともコナン君のことも大好きなんだもん」
「吉田さん･･･」
「歩美がコナン君にチョコをあげるのは、歩美がコナン君を好きなことをコナン君に知ってて欲しいから。せっかくのバレンタインなんだもん、好きな人には告白しなくちゃ♪」
「･･･勇気がないの、私には。それに比べて、吉田さんは強いのね」
「そんなことないよ。コナン君が好きなのが哀ちゃんじゃなかったら、チョコあげなかったかもしれないし。･･･歩美ね、哀ちゃんもコナン君も大好きだから、幸せになってほしいの」
「ありがとう。吉･･･いえ、歩美ちゃん」
　二人と擦れ違う。
　弾かれたように振り向くと、「私」も振り向いていた。
　私が初めて見る、心の底からの「灰原哀｣の笑顔。
「貴女は･･･独りなの？」
「え･･･？」
「貴女は、独りじゃない。そうでしょ？」
　そう言って、「私」は走っていった。「彼女｣そう、「私」の親友の元へと。
「私は、独りじゃ･･･ない？」
　そう呟いた瞬間、闇が消えた。同時に、「私」も「彼女」も消えていた。
　私は、すでに闇から抜け出していたのだ。「彼女」の優しさと「彼」の愛情によって。
　そして･･･闇が消えた、光りに包まれた世界で、私の前に立っていたのは･･･。

　　＊　　＊　　＊　　＊　　＊　　＊　　＊　　＊　　＊　　＊　　＊　　＊　　＊

「灰原？」
「･･･」
「大丈夫か？さっき、うなされてたけど」
「工藤･･･君？」
「オレが工藤新一以外の誰に見えるんだよ。寝惚けてんのか？ったく。服部ほどじゃねぇけど、お前も相当寝起き悪いよな」
「失礼ね、寝惚けてなんかないわよ」
「何か、怖い夢でも見たのか？黒の組織の･･･とか」
「怖い･･･夢？そういうのじゃなかった気がする」
「ならいいけど」
「･･･。ねぇ、工藤君。吉田さんのコト、好きだった？」
「･･･は？いきなり何言い出すんだよ。夢に歩美でも出てたのか？」
「ううん、覚えてない。でも･･･」
「でも？」
「やっと･･･自由になれた気がする」
「･･･そっか」
「ん･･･」
「歩美と言えば、おめーら二人でオレにチョコくれたよなぁ」
「あら、覚えてたの？」
「そりゃまぁ。･･･っと、あと二日でバレンタインだけど、今年は何かくれるのか？」
「欲しいの？」
「出来れば。「初めて』のバレンタインなんだし？」
「そうね･･･考えておくわ」
「ったく、素直じゃねぇな」
「素直じゃないのはお互い様でしょ？」
　ベッドから降り、カーテンを開ける。
　空は、意地っ張りな恋人達を祝福するかのように青く、輝いていた。

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　この話、バレンタインSSって言っちゃって良いんでしょうか？
　何かそれほどバレンタインがメインって訳でもないし、半分ぐらい暗いし･･･。
　ま、瑞樹としては書きたかったトコが書けたからオッケーなんですが(苦笑)。
　とにかく哀ちゃんが書きたかった。そして、彼女に幸せになってほしかった。
　ということで出来た話がコレです。
　皆様に受け入れて頂けるか不安ですが･･･。
　ちなみに相棒には「ラッブラブ(笑)」という評価を貰いました(苦笑)。
　なお、題名の「radiant smile」とは、「晴れやかな笑顔(研究社/ライトハウス和英辞典)」です。
　では、コレを読んで下さった皆様に、少しでも瑞樹の想いが伝わることを祈って･･･。