温泉美人と生臭坊主


 とある温泉場、玄奘三蔵は温泉につかりながら酒を飲んでいた。隣では、頼みもしないのについてきた悟浄が茹だっていた。
「三蔵、もっと酒ねぇのか?」
「てめぇがバカバカ飲むから無くなったんだろうが。誰が飲んでいいって言ったんだ、俺の酒を」
「ケチくさいこと言うなよ。あれ?八戒」
 その科白に反射的に振り返ると、部屋で待っていたはずの八戒が立っていた。その横には、子猿がくっついている。
「八戒、来るなって言っただろうが」
 思わず声が荒くなる。こいつは自分が人の目にどう映っているのかが分かってない。三蔵は頭を抱える。
「来るつもりは無かったんですけど、悟空がどうしても一緒に行こうと言ってきかないんですよ」
 バカ猿が、とつぶやく。だが来てしまったものは、仕方がない。
「さっさと入れ」
 そう言って、ごく自然な動作で自分の隣に導く。そして、悟浄がすっかり出来上がっているのを見て、悟空に言う。
「悟空、その酔っぱらいを部屋まで連れて帰れ」
 命令された子猿は、当然のごとく逆らう。
「えぇー、ヤダ。オレ来たばっかりだもん」
「戻って好きなもん食ってろ」
 悟空はその一言に眼を輝かせる。
「何食ってもいいのか?だったら悟浄連れて帰ろっと♪」
 さすが飼い主である。悟空は、悟浄を引きずって走り去ってしまった。周りには他の客はいない。
「何で来たんだよ」
「だから悟空が…」
「悟空ぐらいどうにでも誤魔化せるだろうが。本当の理由を聞いてるんだ、俺は」
 八戒はにこやかに微笑みながら答える。
「あなたは騙せませんね。本当は、お風呂に入りたかったんです」
「部屋に内風呂があっただろうが」
「あなたと一緒に入りたかったんですよ」
 そう言って背を向けた八戒を、三蔵は強引に引き寄せる。そして無言で唇を奪う。始めは軽く、次第に深くなっていくそれに、八戒が抵抗する術はなかった。ようやく離れた唇から、軽い抗議の声があがる。
「誰かが来たらどうするんですか。こういうことは、屋内でしてください」
 しかし三蔵はそんな科白に耳を貸さず、さっき以上の行為に進もうとしていた。
「三蔵、誰か来たらどうするんです?」
「知るかそんな事」
 八戒は苦笑しながら恋人に身体を預ける。
「駄々っ子みたいですよ、今日の三蔵」
 三蔵は、それには答えず八戒の肌に手を滑らす。
「今度からは屋内にしてくださいね」
「覚えてたらな」
 八戒はそっと三蔵の背中に腕を廻した。誰も来ないことを祈りながら…。


*     *     *     *     *     *


「さんぞーたち、おっせーなぁ。でもま、いっか。これメチャクチャうめ〜!」
 床に放り出された悟浄と、食べ物に囲まれて幸せそうな悟空。その二人のもとに、残りの二人が戻ってくるまでの時間が、入浴にしては長すぎたことは言うまでもない。

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あとがき

世間(と言っても裏世間か…?)に5×8が蔓延る中、三蔵好きの瑞樹はどうしても三蔵を書きたかった。
と、いうことで出来上がったのがこの作品。相手が八戒なのは、単純に八戒が好きだから。
ではなく、ちゃんとした(かどうかは不明)理由によります。(下記参照)
1.三蔵は、絶対に攻めである。(大前提)
2.悟浄は、絶対に受けにはなりえない。
3.悟空は、今後シリアスを書く時に書きにくそう。
よって、三蔵の相手には八戒が選ばれた、という非常に単純なことです。

なお、上記の三か条は、瑞樹個人の勝手な意見です。
三蔵受や、悟浄受、悟空のシリアス小説を否定しているわけではございません。
そこのところ御了承下さいますよう、よろしくお願い致します。

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