4「お姫様抱っこする気満々ですが」
お姫様抱っこは女の子の憧れ=男の義務だ!
俺の中に、そんな公式が出来た。
きっかけは、手塚。
正確に言うと、『倒れた桜乃ちゃんをお姫様抱っこで運んだ手塚』を見た朋ちゃんが漏らした一言。
「手塚先輩カッコい〜」
もちろん、朋ちゃんが手塚に惚れたとか、俺より手塚の方がカッコいいと思ってるとか、そういうことじゃないのは分かってる。
それでも、隣で他の男を褒められると、彼氏としてはちょっと凹み気味な訳で・・・。
女の子ってそんなに『お姫様抱っこ』に憧れるのか?と思った俺は、姉ちゃんに聞いてみた。返ってきた答えは、
「まぁ、女の子だったら一度は憧れるんじゃないかな」
そっか、そういうものなんだ。へぇー。
よし、決めた!俺も、朋ちゃんをお姫様抱っこするぞ!
朋ちゃんがこの間の桜乃ちゃんみたいに躓いて足を挫いたり、貧血で倒れたりしたら、その時は手塚のようにすかさずお姫様抱っこで保健室に連れて行くんだっ!!
と決意してから早1ヶ月。未だ『その時』は巡って来ない。
そうだよな〜。朋ちゃんって、超元気少女だから貧血なんか起こしたことはないし、運動神経がいいから滅多に転ぶこともない。
このままじゃ俺がお姫様抱っこするチャンスなんか一生ないんじゃあ・・・。
する気はあるのに、するチャンスが訪れないなんて・・・。
心配になった俺は、不二に相談してみた。すると
「もしかしたらってこともあるから、気長に待ってみたら?」
と、いつものように笑顔でアドバイスされた。
『もしかしたら』かぁ・・・。
うん、そうだよな。朋ちゃんだって体調の悪い日もあるかも知れないし、これから先も絶対に転ばないとは限らない。
よし、朋ちゃんをお姫様抱っこ出来る日がくるまで待とう!!
そしてその日がきたら、メチャクチャかっこ良く朋ちゃんを抱きかかえるんだ!
心の中でそう叫んでいた俺の耳に、不二の呟きが届くことはなかった。
「別に、倒れなければお姫様抱っこ出来ない訳じゃないんだけど・・・・・・ま、いいか」
―――――そして俺は、未だにチャンスを待っている・・・・・・・・・