君がいてくれてよかった

「こーやってお前と歩くん、久しぶりやなぁ」

そう言って屈託のない笑顔を見せる男を見上げる。よく陽(ひ)に焼けた肌がまぶしい。本来なら隣にあるはずの顔が遠い。
「そんなに見とれるほど、俺ってえー男か?」
「だっ、誰がオメーなんかに見とれるかよ。鏡見てから物言えよ」
驚いた。前を見てるから気付かれないと思っていたのに。やはり、だてに探偵をやっていないな。甘く見ていた…と反省する。
しばらく無言で歩きつづけると、前から女子高生と思われるグループが歩いてきた。そのうちの一人が黄色い声をあげる。
「平次君やんか!何やってるん、こんなとこで」
あっという間に女子高生に取り囲まれる。
「かわいー、この子誰?弟さん、おれへんよなぁ」
「あー、知り合いんとこの子やねん。夏休みの間うちで預かってて」
そんなやり取りが十分ほど続いたのち、俺達はやっと開放された。
「コナン君、バイバ〜イ」
「あ、サヨナラ」
はぁーとため息が重なる。
「いやー、女子高生のパワーはすごいな。なぁ、新一」
「……」
「新一?」
急に呼ばれてふと我にかえる。
「え、何」
「どうかしたんか?」
「うらやましいなと思ってな」
平次は不思議そうに問い返す。
「何が?」
「さっきの女の子達だよ。目線が一緒だろ?」
「誰と」
「お前だよ。お前」
それを聞いて平次はしゃがんだ。俺の目線と同じ目線だ。
「これで一緒やろ?」
バカにされた気がする。腹が立って、一発殴ってしまう。
「痛〜。何すんねん、新一」
「バカにすんなよ。俺だって好きでこんな身体になったんじゃないんだからな」
平次は殴られた頭を、大袈裟にさすりながら答える。
「バカになんかしてへんやろ。大体、目線なんかどうでもええやんか」
周りに人がいないのを確認して、平次は俺の唇にキスする。
「目線が同じでも、あいつらは俺と同じモンは見られへんねんで」
「?」訳がわからない。
「どういうことだよ」
「俺と同じモンを見れるんは、この世で新一、お前だけや」
真剣な瞳で話すのを見ていて、胸が熱くなった。
「目線なんか違っても、同じモンが見えてるから、俺らは同じ答に辿り着けるんやろ?それは推理においても、日常においてもかわらへん」
そこまで言って、平次は自分の科白に照れた様子で笑った。そして、思い出したように付け加える。
「あぁ、でも推理のときはたまに答が違うけどな」
「でも見てるものは絶対に同じ、だろ?」
「やっと分かったか」
「あぁ、ついでにもう一つ分かったことがあるぜ」
「もう一コ?何やねん、それ」
平次は、全く見当がつかないといった表情で聞き返す。
「わかんねぇんなら、自分で考えろよ。『西の服部』くん?」
そう言って平次の唇に軽く触れるだけのキスをして走り出す。
「ちょ、ちょっと待てや、おい」

分かったこと、それは平次に逢えてよかったということ。――もちろん本人に言う気は無いが――こんな身体になった俺に『工藤新一』として接してくれる平次の存在はかけがえのないものだと思っている。
平次がいるからこそ、俺は俺で――工藤新一で――いる事が出来る。
いつか、俺が工藤新一の姿に戻れたとき、そのとき平次がまだ傍にいてくれていたなら、そのときは言ってもいいかもしれない。

―――君がいてくれてよかった

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あとがき

何が書きたかったのでしょうか・・・。
多分、『新ちゃんにとっての平次』を書きたかったのだと
思うのですが・・・。新ちゃんが乙女っぽいのは気の所為でしょうか?
平次君の科白が少々気障になっているのは、私の趣味です(笑)。という事はなく、平次君は気障な人なんですよ、元々。
『目線』コナンちゃんはそんなに気にしてないかもしれませんね。
あの目線だからこそ、というような事も世の中には沢山・・・・。
とにかく新ちゃん(コナンちゃん)と平次くんのLOVE×2ぶりが書きたかったというコトで。

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