「特別」の違い〜本当の特別〜


 「…抱いてください」
 いきなりの森下からの申し出に、火村は驚きを隠せなかった。しかし、だからといってこんな美味しい状況を、みすみす見逃すような男ではなかった。すぐさま気を取り直して、森下の耳元で囁く。
 「いいんですか?ほんとに」
 森下は、耳まで赤く染めながら頷く。その反応を見て、ニヤリと笑った火村は、森下の身体を抱き上げ、寝室へと連れ込んだ。
森下をベッドに降ろし、その上に覆い被さる。森下のネクタイを外しながら、キスを降らせる。ネクタイを外し終わると、ワイシャツ、ズボン、と全てを取り去っていった。森下は羞恥で顔を背けてしまう。そんな動作も、火村にしてみれば可愛いものだった。
「森下さん、可愛いですよ」
わざと声に出してみると、森下は首まで真っ赤にして反論する。
「そんな事、言わんといてください」
口調が、いつもよりも砕けたものになってきていた。火村は、そんな少しの変化さえ嬉しく思った。
「可愛い人を可愛いって言うのは、いけませんか?」
そんな風に、言葉で苛めながら火村は森下にキスを降らせる。唇、首筋、胸と下りていき、更に下へと唇を滑らせる。森下の中心まで下りたところで、火村は唇を止め、森下自身を口に含む。森下は、その感覚に思わず首を仰け反らせる。
「や…、火村…先生…やめて‥ください」
火村はそんな制止の声を無視して、行為を続ける。火村にしてみれば、森下がこれほどまで感じている事が、更に自分の欲望を煽るのである。止めろと言われても、止められる筈が無かった。
「ひむらっセンセ…。もう…あ…んっ」
「いいですよ、出しても」
火村がそう言うと、森下はイヤイヤをするように首を振った。火村は、森下を口に含んだまま眼だけを上げた。両手で覆っているため顔は見えなかったが、真っ赤になった耳を見れば、森下がどんな顔をしているかぐらいは分かった。
「センセ…、ホントに…も…おっ…」
「出してください。飲みますから」
火村は、そう答えて更に激しい愛撫を与える。森下は耐え切れなくなり、とうとう火村の口の中に欲望を吐き出してしまう。
「あ…ああんっ…。やあっ…」
火村は、わざと音を立てながら嚥下した。当然森下にも、その音は聞こえた。すでに真っ赤だった森下は、もはや首までどころか全身を赤く染めている。そんな森下をいとおしく見つめながら、火村は手と唇を滑らせる。
森下は、すでに自分ではコントロール出来ない身体をもどかしく思いながらも、火村の与える快感に溺れていた。
火村はと言えば、そろそろ限界が近づいていた。火村としては、ここまで来たのだから当然、森下の中で達したいと思っている。しかし、もちろん森下は初めてであろうから、最後まで行っていいものかどうか…。火村は悩んでいた。
そんな火村の心の内を見透かしたように、森下が言った。
「‥火村…先生。いい…ですから…してくだ…さい」
「でも‥いいんですか?本当に…」
森下の身体を気遣って、最後まで行くのは止めようと思っていた火村だが、この科白を聞いてぶち切れてしまった。ここまで言われて、最後まで行かなければ男じゃない、と思ったかどうかは謎だが。とにかく、火村は最後まで行く決意を固めたのだった。


「森下さん、いきますよ」
そう言うと、火村は濡れた指で充分に慣らした、森下の中へと自身を進めた。元々そんな事に使う為では無い器官である、当然痛みを伴うのだろう。森下の口からは、苦しげな声が漏れてくる。
「やっぱり…止めますか」
しかし、火村の申し出に森下は首を振った。火村とて、もう止められる状態では無かった。しかし、森下の身体の負担を考えれば、無理をしてでも止めるつもりだった。
「続…けて…くださ…い。だい…じょ…うぶで…すから…」
火村は、必死にそう訴える森下にキスを与えてから、ゆっくりと侵入して行く。根元まで埋めると、火村は動きを止めた。森下の息が落ちつくのを待って、またゆっくり動き始める。森下は始めのうち、苦痛の声しか出さなかった。火村が、やはり止めた方がいいのではないかと思案していると、森下の声が変わった。
「あ…んっ、ああっ…。や…あん‥」
今までの声とは180°違う、快感を訴える声だった。
「森下‥さん?」
火村は思わず耳を疑った。が、直ぐに気を取りなおして、先程より激しく腰を動かし始める。その動きに合わせて、森下の声も激しさを増す。森下の中は温かく、火村は溶けそうなほど気持ち良かった。ちょうど良い具合の締め付けも、火村の快感を煽る。森下自身もすでに張り詰めていた。二人とも限界に近づきつつあった。
「ひむ…らせんせ…い…。もおっ…」
「森下…さん…」
かくして、捜査一課刑事と私立大学助教授は同時に果てたのだった。


夜中の一時、森下が目を覚ますと、火村はいなかった。もしかすると、アレは夢だったのではないかと思う森下に、痛みと甘い気だるさが、夢ではない事を主張する。
では火村は何処に、と思ったところにドアが開いた。慌てて上体を起こすと、例えようもない痛みが下半身を襲う。思わずうずくまった森下に、火村が駆け寄る。
「森下さん。大丈夫ですか。…急に起き上がるから」
そう言って優しく抱き寄せられて、森下の心にあることが思い出された。
火村の手を振りほどくと、俯いたまま話し出す。
「先刻の事、忘れてください。僕、酔ってて…。二度とあんな事、言いませんから…」
最後のほうは消え入りそうな声だった。火村は、驚きのあまり怒鳴ってしまう。
「どういう事ですか。忘れるって…、どうして」
「だって、火村先生には有栖川さんがいるじゃないですか。だから…」
その言葉に、全てを理解した火村は森下の隣に腰を降ろし、力一杯抱きしめる。森下が振りほどこうとしても、敵わなかった。森下が抵抗を諦めると、火村も腕の力を抜き、優しく抱きしめた。暫くそうした後、軽く触れるだけのキスをして、耳元に唇を寄せる。
「私が愛してるのは、貴方だけです」
そしてまた、森下の何か言いたげな唇を塞ぐ。今度は、深く、強く、激しいキスだった。
 やっと唇が離されたところで、森下が声を出す。
「本当ですか、今の言葉…。本当に、僕の事、その…」
「こんな嘘、つきませんよ。何か勘違いしてるようですが、私とアリスは友人以上の何でも無い」
「でも、火村先生の、有栖川さんを見る眼が…」
「眼、ですか?」
「…はい、『特別』な眼をしてるなって、いつも…」
そんなつもりは無いんだけどな、と呟いて、火村は森下を抱きしめる。
「10年以上も友人をやってれば、多少は特別にもなりますよ。それに、アイツは子供みたいで目を離せない。そのせいで眼が、あなたの言う『特別』になってたんだと思います。でも、私の『特別』は貴方です」
火村の良く響くバリトンで、しかも耳元で囁かれて、森下はゆでだこ状態である。
「火村先生、僕も‥先生の事…愛してます」
その言葉に、火村は満足そうに微笑む。そして、そっと森下の身体を押し倒す。その後は…。
そう、恋人たちの夜に終わりは無いのである…


〜翌朝〜
森下は電話の音で目覚めた。隣で眠る火村を起こさないように、痛みの走る身体で慌てて受話器を取る。
「あ、森下さん?おはようございます」
「有栖川さん。お、おはようございます。どうしたんですか」
アリスが森下に電話してくるなど、滅多に無い事だった。
「あのー、火村泊まってません?昨日、森下さんと飲んでからウチ来るってゆうてたんですけど、来なかったんで。火村ん家電話しても帰ってないって言うし。だから、森下さんトコかなと」
森下は、何故かドキマギしてしまい、どもってしまう。
「えっと、あの、その」
「泊まってますよね?」
さらに聞かれて、ようやく返事が出来た。
「あ、はい。泊まってます」
「やっぱりそうですか。そしたら代わってもらえます?」
「はい、ちょっと待ってもらえますか。今起こしてきますから」
電話を保留にして、寝室に向かおうと振り向いたところで、森下は何かにぶつかった。顔を上げると、寝てるとばかり思っていた火村だった。
「おはようございます。森下さん」
「火村先生、おはようござい…」
森下の言葉が中途半端なのは、火村の唇によって口を塞がれたからである。やっと火村の唇が離れ、森下は電話の事を伝えた。アリスと話している火村を横目に、森下はコーヒーを淹れる。
「うるせーよ。人のこと心配する前に自分のこと考えろ。…あ、何で…。…分かったよ」
そう言って、火村は森下に受話器を渡した。困惑したまま森下は電話に出る。
「もしもし?何ですか」
「おめでとうございます。アイツ、変なヤツやけど、見捨てんといたって下さいね。じゃあ、また」
アリスは言いたいことだけ言って、電話を切ってしまった。呆然と立ち尽くす森下に、火村が声をかける。
「アリス、変なこと言いませんでした?すいません、どうしても代われと言われて…」
「火村先生…。有栖川さん、何処まで知ってるんですか…」
「……私が、あなたのことを好きだと言うことは…」
「おめでとうございます、って言われました」
「めでたくないですか?」
そう言われ、森下は悩んでしまう。めでたくないとは思わない、でも…。悩んでいるところに、火村の優しいキスが降ってくる。そうなると、もう何もかもどうでもよくなってしまう。そう、火村さえいれば、他の事などどうでもいいのだ。火村にしても、森下以外の事はどうでもいい。
こうして、また朝から恋人たちの夜は始まるのだった。






結局据え膳を食ってしまった火村先生。
とてつもなく恥ずかしい文になってしまったのが、心残りで・・・。
書き直すのもどうかと思うし・・・。
これは、Hを頑張ったつもりなんですけど、それほどでもないかもしれない。
これ以上のHは書けないでしょう。
これがおそらく最初で最後のHになると・・・。分かりませんけどね。


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