賭けるものは何ですか
「や…火村ちょっと待って‥」
「STOPは認めないって言っただろ?それに、すぐ良くなるって」
そう言いながらも、火村の手はアリスの上を滑っていく。アリスは声を出さないように口を押さえながら――前回自分の声を聞いてとてつもなく恥ずかしい思いをしたため――数時間前の自分の言動を後悔していた。
――数時間前――
久しぶりに遊びにきた火村と酒盛りをしたアリスは、かなりできあがっていた。
「勝負や!火村」
アリスはいきなり立ち上がって火村を指差した。
「勝負?何の勝負だよ」
アリスは、おぼつかない足取りで棚の前まで歩いた。火村は心配そうな、あきれたような表情でその様子を見守っている。
「ポーカーで勝負や、俺が勝ったら今度の〆切前一週間、メシ作りに来てもらうで!」
相当酔っているのだろう。行動が突飛過ぎる、と火村は思った。だが…と心の中でニヤリと笑う。
「そりゃいいけど、俺が勝ったら俺の言うことひとつ聞いてもらうぜ?」
アリスが考えているようだったので、火村はアリスの負けず嫌いな性格を刺激する。
「まぁ負けるのが怖いなら、やめといたほうがいいぜ」
火村の企みどうり、アリスはのってきた。
「誰が負けるか。火村こそ覚悟せぇよ」
* * * * * * *
「これで俺の勝ちだな」
「うそや〜、なぁもう一回。な、火村?」
そう言ってアリスは上目遣いに火村を見る。アリスのその仕種は可愛かったが、火村は冷たく言い放った。「駄目だ」そして、意地悪そうな微笑みを浮かべながらアリスを引き寄せる。
「約束だ、俺の言うこと一つ聞いてもらうぜ!」
「…何させるつもりやねん」
「決まってるだろ。今夜は覚悟しろよ」
* * * * * * *
アリスが口を塞いでいるのに気付いた火村は、アリスの両手をその頭上に留めておく。
「声がなきゃつまんねぇだろ?聞かせてくれよ、アリスの可愛い声を…」
そう言いながら、アリスの中に指を滑り込ませる。
「や…火村。気持ち悪っ‥」
アリスの両手を戒めていた左手を離して、色っぽく潤んだ瞳からこぼれる涙をぬぐってやる。アリスは、すがりつくような眼で火村を見上げる。そんな恋人に愛しさを込めたkissを与えた火村は、優しい口調で語りかける。
「すぐに良くなるから、もう少しだけ我慢してくれ」
そんな口調で話しかけられて、アリスは思わず頷いてしまった。しばらく何も言わず――もちろん本人の意思に関係のない声は漏れていたが――火村に身体を委ねていたアリスが、不意に口を開いた。
「火村は…俺のこと好き‥?」
息遣いの荒くなってきた恋人の可愛い質問に、火村は苦笑してしまう。この状況で、そんな問いを口にするアリスが愛しくてたまらない。素直に答えようかとも思ったが、アリスを見てるとついついイジメたくなってしまう。今日もまた、意地悪な返答をしてしまった。
「アリスが俺を満足させてくれたら、その後で答えてやるよ」
頬を染めて、泣き出しそうな表情のアリスにkissを降らせながら、二本目の指を滑り込ませる。四本目を入れようとしたとき、アリスからSTOPがかかった。
「ちょっと待って…それ以上入れたら、俺壊れてしまうわ…」
「あぁ?」と不服そうな火村。
「壊れるわけねぇだろ。この前、俺のが入ったんだからな。覚えてるだろ?」
その一言に、アリスはこれ以上は無理だというぐらい赤くなる。
「そんなん忘れたわ」
悪魔になった火村――少なくともこのときのアリスにはそう映った――は、唇を舐めて非情な一言を口にする。
「忘れたのなら、思い出させて差し上げなきゃな」
このとき、火村の瞳の奥に獣の光が走ったことに気付く余裕など、アリスには無かった…。
<教訓>
お酒を飲んでいい気分になっても、むやみに人と勝負をしないように…
えーっとこれは、瑞樹の書いた「初・ヒム×アリ」です。
故に、あまり細かいところは突っ込まないでください(苦笑)
この話は、一見「お酒を飲んだ勢いで突っ走ると大変なことになるかもしれないよ」という教訓話のように見えて(え?見えない?)何の事はない、結局アリスと火村がいちゃいちゃしてるという話です。
皆様、くれぐれもお酒の勢いで「自分に勝ち目のない賭け事」を他人様に吹っかけませんようお気を付けくださいませ。